勅なれば いともかしこし
鶯の宿はと問はば いかが答えむ
「大鏡」によれば、天暦年間(947ー956)に村上天皇は、御所清涼殿の梅が枯れたのを知り、紀貫之の娘の庭にある美しい紅梅を移植させようとしたそうです。ところがこの梅を大切に育ててきた彼女は悲しみ、この歌を書いた短冊を枝につけて献上したとのこと。その歌には、「恐れ多くも天皇のご命令ですから、私はこの梅を献上いたしますが、この梅を住処とする鶯がまた今年も飛んできて『私のお家はどこ?』と聞いてきたら、私は何と答えればよいのでしょう」という意味が込められており、その風流に感動した天皇はその梅を「鶯宿梅」と名付けて元に戻したと伝えられています。
そんな雅ないわれのある「鶯宿梅」を名に持つ逸品が、北九州市小倉北区に店を構える「万玉」にあります。1956年に料亭としてはじめたこの店では、酒の付き出しとしていた梅干しの果肉「鶯宿梅」が好評で、いつしか定番となり全国に知られることになりました。この「鶯宿梅」は、紀州田辺産の「南高梅」を秘伝の製法で塩分を抑えて梅干しにし、果肉だけを取り出して北海道産の茶昆布で味つけ、ペースト状にした練り梅のようなもの。ロクロを回して一点ずつ手作りされた耐酸性のある陶器に入れて販売されています。陶製の壺の蓋を開けると、色鮮やかな紫蘇が目に入ります。もちろん着色料など一切使わない天然色です。紫蘇の下には淡い紅色をしたたっぷりの果肉。梅干しの果肉と聞くだけで、口の中がすっぱくなる方もいらっしゃるでしょうが、この「鶯宿梅」は味付けに使われた昆布と、抑えられた塩分のおかげで、いたってまろやか。甘みさえ感じる奥深い味で、そのまま酒の肴(アテ)やお茶漬けはもちろんのこと、パンに塗ったりそうめんのつゆに入れたりしても、すばらしい味の引き立て役となります。しかも梅干しは、胃腸を整え、体内ではアルカリ性に変化する健康食品。その贅をつくした逸品「鶯宿梅」を、いわれでもある平安時代の故事に想いを馳せながら、お気に入りのお酒を相手にいただく・・・。シンプルであっても、ちょっと贅沢なひとときかもしれませんね。 【髙島屋紹介記事より】